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東京地方裁判所 昭和50年(むのイ)443号 決定

被疑者 片岡利明

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一  申立の趣旨

東京地方検察庁検察官親崎定雄が昭和五〇年六月一二日申立人に対しなした、申立人と片岡利明とを同月一六日前に接見することを認めない旨の処分は、これを取消す。検察官は同月一六日前に申立人が右片岡に接見するのを妨害してはならない。

二  申立の理由

申立人は、昭和五〇年六月一〇日起訴された爆発物取締罰則違反被告事件(いわゆる「韓産究事件」)の被告人片岡利明の弁護人であるが、同月一〇日右片岡が爆発物取締罰則違反被疑事件(いわゆる「三菱重工事件」)で新たに勾留処分を受けた後の同月一一日東京地方検察庁検察官親崎定雄に対し、右片岡と同月一二日又は一三日接見する旨申入れをしたところ、同検察官は、右片岡との接見は同月一六日以降にされたい旨回答し、同月一六日前の接見を拒否する処分をなした。

しかし、右処分は次の理由により違法不当のものであつて、取消を免れない。

(イ)  最高裁三小決昭和四一年七月二六日刑集二〇巻六号七二八頁は、「公訴の提起後は、余罪について捜査の必要がある場合であつても、検察官等は被告事件の弁護人…………に対し、刑訴法三九条三項の指定権を行使しえないものと解すべきである。」としている。右処分は、右決定に明らかに反し違法のものである。

(ロ)  仮に、起訴後別件の勾留を理由に接見を拒否できるとの説をとつたにしても、検察官の本件指定は接見の申入れから四日以上も接見を拒否する内容のものであり(四日以上にわたる間弁護人のための接見時間をさくことができないという理由は考えられない)、違法不当である。

三  当裁判所の判断

(一)  当裁判所の事実調べの結果によれば、片岡利明は昭和五〇年六月一〇日爆発物取締罰則違反被告事件(いわゆる「韓産研事件」)につき勾留のまま起訴されたこと、一方、右片岡は同日爆発物取締罰則違反被疑事件(いわゆる「三菱重工事件」)で警視庁三田警察署に勾留されたこと、申立人は右被告事件の弁護人であるが、同月一一日右被告事件につき右片岡との接見を申入れたこと、これに対し、親崎検察官は、翌一二日、「片岡との接見は同月一六日ころにしてもらいたい。ついては、新たに勾留状の発付された事件の捜査の必要と調整を図る必要があるので、同月一四日申立人及び関連被告人(韓産研事件の共犯)の弁護人らと会見し、具体的な接見日時を決めたい。」旨回答し、同月一六日ころ前まで申立人と片岡が接見することを認めない処分をしたことがそれぞれ認められる。

(二)  ところで、申立人は、まず、本件のごとき場合にはそもそも捜査官は接見に関する指定処分権がない旨主張し、最高裁三小決昭和四一年七月二六日刑集二〇巻六号七二八頁を援用する。

しかし、右決定は、後行被疑事件につき新たに逮捕勾留することなく、先行被告事件の起訴後の勾留を利用して捜査を行つていた事案に関するものであつて、後行被疑事件についても勾留がなされている本件のごとき事案の場合にまで、右決定が妥当するものとは到底思われない。

後行被疑事件について勾留がなされている場合には、その捜査の必要を理由として、捜査官は、弁護人もしくは弁護人となろうとする者と被疑者兼被告人との間の接見交通に関し、右弁護人もしくは弁護人となろうとする者が先行被告事件の弁護人もしくは弁護人となろうとする者であるか、あるいは後行被疑事件の弁護人もしくは弁護人となろうとする者であるかにかかわらず、刑訴法三九条三項による指定処分を行うことが法律上許容されていると考えられる。

従つて、本件において親崎検察官が接見に関する指定処分をなしうるそれ自体をもつて直ちに違反視することはできないというべきである。

(三)  次に、申立人は、起訴後、別件での勾留を理由に接見を拒否できるとの説をとつても、本件指定は違法不当のものであり、取消を免れない旨主張する。

そこでさらに進んで前記親崎検察官がなした接見に関する指定が本件の具体的事情のもので違法不当のものであつたか否か検討するに、当裁判所の事実調べの結果によれば、申立人は前記被告事件の弁護人ではあるが、前記被疑事件の弁護人でもなく、まだ弁護人となろうとする者として接見を申入れた者でもないこと、前記被告事件はいまだ起訴直後で公判期日の指定も行われていず、六月一二、三日もしくはその後の二、三日中に公判準備のため是非とも接見しておかなければならないという接見の緊急必要性は存しないこと、一方前記被疑事件は勾留直後であり、連日午前午後にわたる取調べが予定されているなどその捜査の進展段階に照らし、捜査の必要性は極めて高いこと、などが認められ、これら捜査や接見の必要性の度合、接見指定によつて蒙る被告事件の防禦権行使上の不利益の度合等に関する諸般の事情を考慮すると、申立人と片岡利明とを昭和五〇年六月一六日ころより前には接見させないとした前記親崎検察官の接見指定に関する処分が取消を免れないような違法不当な点を含むとまで認めることは困難である。

(四)  よつて、本件申立はその理由がないから刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 須田賢)

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